Enrico Rocca 1914
1914年製エンリコ・ロッカ
エンリコ・ロッカは、19世紀トリノ派の中心人物であるジュゼッペ・ロッカの息子として1847年トリノに生まれました。家族はほどなくジェノヴァに移り、少年期を同地で過ごします。 この頃父の工房で基礎的な木工や製作に触れたとされますが、1865年に父が急死した時、まだ10代後半で本格的な徒弟期間を終える前でした。 父の死後、生活のために家を出て、船員・船大工・木工職人として、ジェノヴァ港湾周辺で長く働きます。 後の楽器に通じる「実務的でタフな木工感覚」はこの時代に培われたと考えられています。
1878年にジェノヴァで自らの工房を開設します。最初の十数年ほどはヴァイオリンよりも、リュート、ロンバルディアマンドリン、ギターといった撥弦楽器の製作が中心で、ヴァイオリン制作は1890年代に入ってから本格化しました。
ジェノヴァの名匠 エウジェニオ・プラーガの影響が強く、設計・構成面では父よりもプラーガに近いとする説も有力です。 1901年にプラーガが没すると、ロッカはジェノヴァ随一の製作家としての地位を確立し、イギリスをはじめ国外の商人・演奏家へも多くの作品が流通するようになりました。ジェノヴァ市所有のグァルネリ・デルジェス「イル・カンノーネ」の管理・保守にも関わったとされ、地元での信頼も厚かったと言われています。1915年6月、ジェノヴァの自宅でこの世を去りました。
現在、彼の作品群のなかでは、晩年の1900〜1915年頃の作品がもっとも高く評価されています。
1914年にジェノヴァで製作されたこのヴァイオリンは、エンリコ・ロッカ晩年の作風を顕著に示す作品です。晩年ロッカ特有の気品ある黄金色のニスがその表情をいっそう豊かにしています。豊満なアーチを備えており、エッジワークやコーナーには彼ならではの力強いナイフワークが感じられ、堂々とした造形美があります。
その音は、即応性の高い発音と輝かしい中高域、深い芯を保った低音が特徴で、ソリスティックかつ遠達性のあるロッカ晩年の完成された音を備えています。製作翌年に没するロッカが到達した最晩年の円熟を示す傑作といえるでしょう。








