Giovanni Francesco Pressenda 1837
ジョヴァンニ・フランチェスコ・プレセンダ 1837年製
ジョヴァンニ・フランチェスコ・プレセンダは、1777年1月6日、ピエモンテ州クーネオ県レキオ・ベッリア近郊のボルディアに生まれました。
農民の家系に育ち、自身も長らく農作業に従事していたとされますが、一方で音楽への深い関心を持ち、アマチュアのヴァイオリニストでもあったと伝えられています。
プレセンダは1815年頃、ナポレオン戦争後の活気を取り戻しつつあったトリノにおいて、フランス系製作家ニコラ・レテとピルマンの工房で本格的な修業を始めたとされます。
この工房では、ヴァイオリン製作だけでなく、当時最新であったフランス流の工房運営や分業体制についても学びました。
1819年にニコラ・レテが没した後もプレセンダは工房に残り、1821年頃には独立。
その後、名ヴァイオリニストであったジョヴァンニ・バッティスタ・ポッレドロや、トリノ音楽界の重要人物ジュゼッペ・ゲバールらの支援を受け、その名声は急速に高まっていきます。
また彼は、フランソワ・カロ、ピエール・パシュレル、ジュゼッペ・ロッカら優れた協力者・弟子たちを工房に迎え、19世紀イタリアにおける最も重要な製作拠点の一つを築き上げました。
本作が製作された1837年頃のトリノは、イタリア統一以前のサヴォイア王国の中心都市として発展を続けており、フランス文化とイタリア伝統が交差する、独特の芸術的空気をまとっていました。
その中でプレッセンダは、19世紀イタリアを代表する製作家として確固たる地位を築きつつあり、彼の工房には演奏家や貴族階級の注文が集まっていました。
当時のヨーロッパでは演奏会文化が急速に拡大しており、より大きなホールで遠達性を求められる時代へ移行していました。
プレッセンダの楽器は、その時代的要求に応えるように、芯の強い音と優れた投射力を備えているため、現代においても多くの演奏家から高く評価されています。
本作は、やや高めに設計されたアーチと豊かな内圧感を備え、深みのある赤褐色のニスが美しく木地に溶け込んでいます。
裏板には均整の取れた横杢メイプルが用いられ、スクロールにはプレッセンダらしい彫りの強さと生命感が感じられます。縁取りやコーナーワークにはトリノの職人的気質が色濃く表れ、華美に流れすぎない、実直で密度の高い造形が印象的です。
1837年製という年代は、単なる制作年を超え、プレッセンダが自身の様式を完全に確立した時期を示す重要な意味を持っています。
本作は、クレモナの伝統を19世紀トリノに蘇らせた巨匠の精神と、その時代の音楽文化の熱気を今なお色濃く伝える、極めて貴重な作品です。








